賃金格差と幸福

日本の賃金

 

日本の賃金はイタリア、スペインとほぼ同じ、労働時間もイタリア、スペインとほぼ同じと聞いて違和感を感じませんか?

 

いや、日本人の方が賃金は多いはず、日本人の方が長時間労働をしているはずと思いませんか。

 

残念ながら日本の賃金はイタリア、スペインと同じ水準で、アメリカの約半分55%程度しかありません。

さらに一見すると日本の年間労働時間は少ないように見えますが、正社員が減ってパート労働者が増えています。

正社員一人ひとりの年間労働時間は2000時間を大きく超えており、世界で最も労働時間が長い部類に入ります。ただ、パート労働者が増えたことにより全勤労者一人あたりの労働時間が減ったように見えるのです。

 

みなさんが大学を卒業して、何社もの会社の就職試験を受けて何社も落ちて、やっと手に入れた正社員ですが、他の国からすると恐ろしく時間当たりの賃金が低い労働を強いられるシステムへ懇願して入っている状態です。ではパート労働者の方がいいのかというと労働時間はそれなりですが、正社員の実質時間給未満の賃金しかもらえません。

 

ざっくり計算してみます。

 

日本の正社員の時給

 

 年間労働日数:365日-120日(休日)=245日(労働日)

 年間定時労働時間:245(労働日)x8時間=1960時間

 想定残業時間:30時間(1か月あたり)x12ヶ月=360時間

 年間総労働時間:1960時間+360時間=2320時間

 

 想定手取り年収:500万円

 

 500万円/2320時間=2155円/時間 (時給)

 (パート労働者は時給2155円未満の賃金でしか雇われない)

 

これをスペインに当てはめてみると手取り収入は日本と同じですので、

 

 500万円/1600時間(スペインの年間平均労働時間)=時給3125円(日本の1.45倍)

 

そして年間労働時間1600時間を8時間/日(最近シエスタは少数派)で割ると200日となります。日本(245日労働日)より45日も休みが多いことになります。労働日で考えると2ヶ月分休みが多いことになります。例えば、8月と12月は完全OFFというような感じにできるのです。

 

日本の賃金は低く、労働時間が長いという賃金労働者としては最悪の環境です。同じ給料なら、イタリア、スペインのように家族との時間をしっかりと持って労働するか、アメリカのように労働時間はそれなりにあるが賃金は十分にもらえる環境でないとやってられません。

 

さらに悲しい事実としてこの30年間日本の労働者賃金は変化していないのです。

 

ハワイとかに旅行へ行くと朝食を三人でいただくと1万円ぐらいかかります。アメリカの物価は上がっていますし、その分給料も上昇しています。しかし、日本は物価も上がっていないかわりに賃金も上がっていません。海外の方がたくさん日本を訪れる(コロナで激減)ようになりましたが、相対的に物価が安いからです。アメリカに住んで一年間生活するより、日本へ旅行し一年間過ごす方が安いのです。

日本の中小企業

 

日本の場合、全体の99.7%が中小企業です。

労働者の数では68.8%が中小企業で働いています。

 

中小企業に比べて、大企業は効率良く稼ぐことができます。

例えば、一般の人がテレビを買うときパナソニックソニーなどの大企業の製品をまずは見てしまいます。何の宣伝をしてなくても。さらに、何となく大企業の製品の方が安心できるような気がして買ってしまいます。

しかし、テレビは今やだれでも作れる(だれでもは言い過ぎかもしれませんが)製品です。ドン・キホーテも自社ブランドでテレビを販売しています。中国のよく知らないメーカーもテレビを販売しています。

でも、大企業の製品を選んでしまいます。少し高いけど大企業の製品が何となく安心で品質が良さそうという理由で選んでしまいます。しかも、購買者の選択候補に大企業は常に入っているのです。聞いたこともないブランドは選択候補すら入っていないのです。

それだけ、大企業は特に販売促進策を打たなくても効率よく儲けるスパイラルに入っていると言えます。

また、製品を製作するうえで調達する部品コストを下げる値段交渉力も大きくなるため、安く作って高く売る力がはたらきます。

 

安い給料で働かされているのが中小企業で働く68.8%の賃金労働者です。賃金労働者は原理的(大企業の賃金労働者でも)に少ない賃金で働くことになるのですが、もともと効率的に稼ぐことができない中小企業では、さらに労働者は搾取されるかたちになります。

ここで、意外といい暮らしができるのが中小企業のオーナーです。ほとんどの中小企業は社長とオーナーがイコールです。出資者(オーナー)と経営者が別になっていません。さらに、会社の財布と家計の財布を実質同じにできてしまいます。中小企業のオーナーは賃金労働者の足元を見てかなり搾取して、かつ税金を払わない構図をつくり上げています。そのうえ、日本の99.7%が中小企業ということで日本を支えているのは中小企業というよいイメージが成り立っています。

 

しかし、実際、日本の競争力は中小企業で働く賃金労働者の低賃金で成り立っているのです。